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札幌地方裁判所 昭和37年(む)739号 判決

申立人 板垣忠男

決  定

(申立人氏名略)

右申立人のなした裁判の執行に関する異議の申立について、次のとおり決定する。

主文

当裁判所が昭和三五年一二月二二日した保釈保証金没取決定の執行として札幌地方検察庁検察官寺沢真人が申立人に対し、昭和三六年二月一日なした保釈保証金五万円の納付告知処分を取り消す。

理由

本件申立の理由は「申立人は被告人李奉根に対する保釈保証金五万円の納入方を告知されたが、右被告人にも右保証にも全く関与しないので異議を申し立てる」という。

当裁判所の調査によると、(一)被告人李奉根に対する札幌地方裁判所昭和三四年(わ)第二七六号第三一四号第三七〇号各窃盗被告事件(札幌高等裁判所昭和三五年(う)第七六号窃盗被告事件)の審理中、昭和三四年一二月一五日札幌地方裁判所裁判官神崎敬直のなした右被告人に対する保釈許可決定において保証金一〇万円のうち五万円について申立人他一名の保証書をもつて代えることが許され、申立人名義の保証書が提出されていること(右事件記録第一一三五丁以下)、(二)右被告人が保釈中逃亡したので、昭和三五年一二月二二日札幌地方裁判所裁判官今枝孟がなした保釈保証金没取決定にもとづき、昭和三六年二月一日札幌地方検察庁検察官寺沢直人により申立人に対して保釈保証金保証者として五万円の納付告知処分がなされたこと(本件記録および昭和三五年(む)第七〇号保釈保証金没取請求事件記録)、が認められる。そこで右保証書の作成について検討するのに、(一)当裁判所における申立人の陳述によれば、(イ)申立人は前記李奉根と一面識なく、(ロ)保証書の押捺印影は申立人の所持する印鑑によるものであるが署名は申立人のそれではなく、(ハ)申立人としては保証書の作成された頃、手形書換のため松村某という者に印鑑を二、三日預けたほかに盗用される心当りはなく、(ニ)右松村某は当時朝鮮総連の役員をしていたがその後朝鮮に引揚げた旨であり、

(二) 李奉根の供述によれば、(イ)李奉根は申立人と一面識なく、(ロ)当時の保釈関係については知人松村某が事件に関わりがあつたので努力してくれた、(ハ)保釈の身柄引受人として名を連ねている者のうち二名は全く知らず、一名は松村某の友人として知つており、また、申立人のほかに保証金保証人となつている山口年春も全く知らない、(ニ)保証金は松村某が支出したものと思つた、(ホ)保釈後松村某以外の者に礼に行つたことはない、旨述べており、

(三) 前記窃盗被告事件記録によれば右松村某とは松村政男こと李種賛と推定され、(四)以上を前記窃盗被告事件記録の関係者の経歴、職業等に照して総合判断すると、申立人の陳述は真実と認められ、前記保証書は申立人の関知しないものと認められる。したがつて、刑事訴訟法第五〇二条により主文記載の納付告知処分は取り消すべきものであるから(福岡高等裁判所宮崎支部昭和三五年三月二四日決定、下級裁判所刑事裁判例集第二巻三九三頁参照)主文のとおり決定する。

(裁判官 花田政道)

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